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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)737号 判決 1975年1月28日

大阪市住吉区墨江東七丁目一九四番地

原告

角英吉

右訴訟代理人弁護士

松井清志

片山善夫

豊川正明

鈴木康隆

梅田満

正森成二

大阪市住吉区上住吉町一八一番地

被告

住吉税務署長

宮下藤繁

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長

山内宏

右被告両名訴訟代理人弁護士

上原洋允

同指定代理人検事

井上郁夫

同法務事務官

秋本靖

同大蔵事務官

川崎一

大槻福治

山下功

右当事者間の更正処分取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  被告住吉税務署長が昭和四一年七月一九日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を九二万六〇四二円(ただし、審査請求に対する被告大阪国税局長の裁決によって一部取消がなされた後のもの)とする更正のうち、八〇万〇四五五円を超える部分を取消す。

二  原告の被告住吉税務署長に対するその余の請求および被告大阪国税局長に対する請求はいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告住吉税務署長との間においては原告に生じた費用の二分の一を同被告の、その余を各自の負担とし、原告と被告大阪国税局長との間においては全部原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告住吉税務署長が昭和四一年七月一九日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を一三一万八一六〇円とする更正のうち、五五万円を超える部分を取消す。

2  被告大阪国税局長が昭和四三年四月二四日付で、前項の更正に対する原告の審査請求を棄却した裁決を取消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は鉄工業を営む者であって、大阪市住吉区内の零細商工業者が自らの生活と営業を守ることを目的として組織した住吉商工会ならびに大阪府下の各商工会の結集した大阪商工団体連合会の会員であるが、昭和四一月三月一一日被告住吉税務署長(以下、被告署長という。)に対し昭和四〇年分所得税につき総所得金額を五五万円、所得税額を九〇〇〇円として白色申告書による確定申告をしたところ、被告署長は昭和四一年七月一九日総所得金額を一三一万八一六〇円、所得税額を一四万一七五〇円とする更正ならびに過少申告加算税六六〇〇円を賦課する決定をし、同月二〇日その旨原告に通知した。

2  そこで、原告は同年七月二九日右処分につき被告署長に対して異議申立てをしたが、同署長は同年一〇月一九日これを棄却するとの決定をし、同月二〇日その旨原告に通知したので、原告は同年一一月一六日被告大阪国税局長に対して審査請求をしたところ、同局長は昭和四三年四月二四日原処分の一部を取消して総所得金額を九二万六〇四二円とする旨の裁決をし、同月二七日原告にその旨通知した。

3  しかし、被告署長のした本件更正には、次の違法がある。

(一) 本件更正通知書にはその理由として何らの記載もなく、その後の異議申立に対する決定ならびに審査請求に対する裁決によっても更正の理由は未だ明らかでなく、これは不服審査制度における争点主義に違反する。

(二) 国税通則法第二四条によると、更正処分は調査に基づきなされるべきものであり、かつ右調査は納税者の生活と営業を不当に妨害することのない適正なものであることを要求されるところ、被告署長は原告に対し不当な調査をし、かかる不当な調査に基づいて本件更正をした。

(三) 更正処分は適正かつ平等になされなければならないのに、被告署長は、原告が商工会々員である故をもって、他の納税者とは差別的にかつ商工会の弱体化を企図して、本件更正をした。

(四) 原告の本件係争年分の総所得金額は五五万円であり、本件更正は原告の所得を過大に認定した違法がある。

4  よって、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1のうち、原告がその主張のような住吉商工会および大阪商工団体連合会の会員であることは不知、その余は認める。

2  同2は認める。

3  同3については、(一)のうち更正通知書に更正の理由を記載していないことは認めるが、その余は争う。

三  被告らの主張

1  住吉税務署の調査担当官は、原告の本件係争年分所得の調査のため昭和四一年五月から六月にかけて数回にわたり原告および原告の妻と面接し、再三帳簿の提示を求めたが、原告は民主商工会事務局作成と称する収支計算書等を示したのみで、原告の収支を明らかにする帳簿の提示はついになされず、また取引に関する質問に対しても具体的な回答が得られなかった。そこで、調査担当官はやむなく原告の取引先および取引金融機関について反面調査を実施し、これにより原告の取引金額を把握し、この収入金額に原告と業を同じくする業者の平均的な所得率を乗じ、雇人費、支払利息および外注費を特別経費ととして除いて所得金額を算出したところ、原告の申告額と異なったので、被告署長は本件更正をしたのである。

2  原告の昭和四〇年分の総所得金額およびその内訳は次のとおりであり、その範囲内でなされた本件更正(ただし、前記裁決により一部取消された後のもの)は適法である。

(一) 収入金額(売上額) 五二四万四一一六円

守谷電工株式会社 三一一万七二五〇円

三洋商会 一一二万五三四六円

大阪機電株式会社 三五〇〇円

株式会社興電舎 一九万五九四五円

本田金属工業株式会社 二〇万八八〇〇円

本田宏 一〇万三〇一〇円

株式会社谷製作所 二一万五一二五円

芝村自動機器製造株式会社 二四万四二四〇円

その他 三万〇九〇〇円

(二) 雑収入 一万二〇〇〇円

(三) 仕入金額 四九万六七一三円

(四) 必要経費 二九四万四二〇二円

公租公課 六万四一九五円

水道光熱費 一三万六四四三円

旅費 四万七六五〇円

通信費 二万九六〇四円

火災保険料 三万二二五〇円

消耗品費 一六万三六二四円

減価償却費(建物以外) 二三万六〇八四円

雑費 四万八二五〇円

雇人費 九三万〇六七〇円

地代家賃 八万八〇〇〇円

支払利子割引料 八万七一六六円

外注費 一〇八万〇二六六円

なお、右費目のうち消耗品費に関する原告の後記自白の撤回には異議がある。

(五) 差引所得金額 一八一万五二〇一円

四  被告らの主張に対する原告の認否

1  被告らの主張1のうち、昭和四一年五月初めごろ原告が住吉税務署の調査担当官から調査を受けたこと、同担当官が原告の取引先、取引金融機関を調査したことは認める。原告は調査を受けた後、書類を整理し、まとめて住吉税務署へ提出した。

2  同2のうち

(一)は、三洋商会からの収入金額を除き、その余を認める。同商会からの収入金額は一一万〇六〇〇円にすぎず、それを超える額について否認する。

(二)は認める。

(三)は否認する。仕入金額は五二万七一三三円である。

(四)のうち、消耗品費については争い、その余は認める。なお、昭和四七年一月三一日午前一〇時の口頭弁論期日において、消耗品費を自白したのは、真実に反し、かつ、錯誤に出たものであるから、撤回する。消耗品費は、二六万四五四九円が計上されるべきである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第五号証、第六号証の一ないし一二を提出

2  証人原富美代の証言、原告本人尋問の結果を援用

3  乙第一ないし第五号証、第一〇ないし第一二号証の成立は認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第七号証、第八号証の一・二、第九ないし第一二号証を提出

2  証人相見勉の証言を援用

3  甲第六号証の一ないし一二の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因1のうち原告が住吉商工会および大阪商工団体連合会の会員である点を除くその余の事実および2については、当事者間に争いがない。

二  被告住吉税務署長に対する請求について

1  まず、本件更正の手続上の瑕疵につき原告の指摘する点を順次検討する。

(一)  本件更正通知書に更正の理由が記載されていないこと、および、原告が白色申告書によって本件係争年分の確定申告をしたことは、当事者間に争いがない。

ところで、国税通則法第二八条第二項は、更正により課税標準および税額等がいかに変動したかを明瞭にするため、更正通知書に同項各号所定の事項を記載すべきものとし、青色申告に対する更正については、これに加えて所得税法第一五五条第二項が、青色申告書に係る年分の総所得金額等を更正する場合には、その更正の理由をも附記すべきものとしているが、白色申告については、納税者に青色申告書のごとく記載およびその保存を義務づけていないと同時に、これに対する更正の場合に右のような理由附記をすべき旨の規定もないから、更正の理由を知りうることが望ましいことであるとしても、その記載のないことをもつて当該更正を違法とすることはできない。

(二)  住吉税務署の調査担当官が、原告の確定申告に係る本件係争年分の所得について原告に面接して調査をし、さらに原告の営業取引先、取引金融機関を調査したことは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第二、第三号証、証人相見勉の証言、原告本人尋問の結果(ただし後記措信できない部分を除く)ならびに弁論の全趣旨によれば、住吉税務署の調査担当官は調査の過程で原告に帳簿の提示を求めたが、原告がこれを拒み、調査に原告の協力が得られなかったため、やむなく原告の営業取引先、取引金融機関を調査して、原告の営業収入を算出したことを認めることができ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、被告署長のした調査が違法であるということはできず、原告主張のような不当な調査がなされたことを窺わせる証拠もないから、この点に関する原告の主張は理由がないといわなければならない。

(三)  被告署長が商工会の組織の弱体化を企図して差別的に本件更正をしたとの点については、本件全証拠によっても、これを窺うことができない。

2  次に、原告の本件係争年分の総所得金額について判断する。

(一)  収入金額(売上額)中、三洋商会からの収入金額一一二万五三四六円を除き、その余の取引先からの収入金額合計四一一万八七七〇円については、当事者間に争いがない。

本件係争年度に、三洋商会から少なくとも一一万〇六〇〇円の収入があったことは当事者間に争いがないが、同商会からさらに左金額を超える収入があったとの事実については、本件全証拠によってもこれを認めることができず、かえって証人原富美代の証言によって真正に成立したと認められる甲第六号証の一ないし一二、証人原富美代の証言および原告本人尋問の結果によれば、三洋商会は機械工具の販売を業とする者で、原告は同商会からボルト、スパナ、ボール盤等の機械工具を購入する関係にあり、同商会がその得意先から加工の依頼を受けた仕事について、原告がこれを同商会から下請することもあったけれども、これによって得られる原告の収入は、昭和四〇年当時年間せいぜい一〇万円程度にすぎなかったことが認められる。

すると、三洋商会からの収入金額は前記一一万〇六〇〇円とみるほかはないから、原告の収入金額(売上額)の合計は、前記争いのない四一一万八七七〇円に一一万〇六〇〇円を加算した四二二万九三七〇円となる。

(二)  原告が雑収入として一万二〇〇〇円を得たことは、当事者間に争いがない。

(三)  証人相見勉の証言および原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第七号証ならびに証人相見勉の証言によれば、原告が前記売上収入を得るにあたって、四九万六七一三円の仕入(掛仕入四四万四四八三円、現金仕入五万二二三〇円)を要したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(四)  必要経費中、消耗品費一六万三六二四円を除く他の費目の合計二七八万〇五七八円については、当事者間に争いがない。

原告が、昭和四七年一月三一日午前一〇時の口頭弁論期日において、消耗品費として計上されるべき金額が一六万三六二四円であることを自白したことは、記録上明らかである。ところが、原告は右自白を撤回し、被告らはこれに対して異議を述べるので、右自白の撤回の許否について判断するに、消耗品費が一六万三六二四円を超えてさらに要したことは、原告本人尋問の結果によってもこれを認めるに足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はないので、原告の前記自白が真実に反することについては、その立証がないものというほかはないから、右自白の撤回は許されない。したがって、消耗品費は一六万三六二四円であるとしなければならない。

よって、原告の必要経費は、合計二九四万四二〇二円となる。

(五)  以上によれば、本件係争年度の原告の総所得金額は、収入金額である四二二万九三七〇円と一万二〇〇〇円の合計額四二四万一三七〇円から仕入金額四九万六七一三円その他の必要経費二九四万四二〇二円合計三四四万〇九一五円を差引いた八〇万〇四五五円である。

3  そうすると、被告署長のした本件更正は、原告の総所得金額を過大に認定した違法があり、八〇万〇四五五円を超える部分は取消しを免れない。

三  被告大阪国税局長に対する請求について

審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えにおいては、原処分の違法を取消しの理由とすることはできないところ(行政事件訴訟法第一〇条第二項)、原告は本件裁決の違法事由について何ら主張しないから、被告大阪国税局長に対する請求はこれを棄却するほかはない。

四  以上の事実によれば、原告の本訴請求は、被告署長に対し本件更正のうち総所得金額八〇万〇四五五円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるから認容し、同被告に対するその余の請求および被告大阪国税局長に対する請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官 大谷禎男)

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